この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon

「真下。お前、鹿沼と喧嘩したか?」
「目敏いですわね、社長。さすが陽菜ばっかり観察している甲斐があること」
「……お前」
結城が回りを気にして、私の耳に囁いた。
「女の子の日?」
艶やかなテノールの声に、ぞくりとしてしまった私は、思わず結城の頬を平手打ち。
「馬鹿にしないで!! 遊ぶなら、他に行きなさいよ」
「ちょっ、真下……」
なんだか悔しくてたまらなかった。
その理由がわからなくて、もやもやして……。
相変わらず、雅さんの病室にいても、私はその他大勢のひとりで、満たされることはなかった。
今までは傍にいるだけでいいなどと考えたこともあったけれど、私の気持ちを理解しようとしてくれない雅さんが恨めしくて。
私があれだけ迫ったのに、雅さんの身体は反応しなかった。
私は女としては不出来で、好きな人にも女として認められない。
私はなに?
私の存在理由は。
シークレットムーンでずっと働いていたいのに、明日30日で仕事納め。
つまり明日から、働く理由はなくなる。
それでも会社に出よう。
そして会社で、大晦日の誕生日を過ごして、新年を迎えよう。
陽菜も結城も、きっと可愛くないこんな私を、祝ってあげようなど思わないから。
ひとりでいるという事実を、仕事で誤魔化そう。
……目頭が熱くなったのを、雅さんに見られていたのも知らずに。
30日――。
陽菜とも結城ともあまり話をしないまま、終業。
結城が、社長としてみんなの前でなにを言っていたのかもよくわからない。
早く皆帰ってほしい。
私は、ひとりで居たい。
「真下、飲みに行くぞ」
「はあ!?」
「お疲れ様会兼忘年会だ」
結城はまた空笑いをして見せた。

