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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon
 

「おい、衣里?」

「呼び捨てにするな、馬鹿っ!! 大嫌いっ、この最低っ!!」


 私は恐らくギネスにでも載るような、秒単位の速さで服を着て、ホテルから飛出した。……ズキズキする頭痛を抱えながら。


 結城はそんなことをしないと思っていた。

 結城は、私を……そこらへんにいる女のように扱わないと。


 雅さんに捧げたかった私のバージン。

 この年でバージンということが、世間様から見れば遅かろうとも、愛するひとに貰って欲しかったのに!

 愛するひとが貰ってくれなかったら、私一生バージンままでいいと思ってたのに!!


 なんで結城。よりによって結城。


 あの照れたような顔を思い出し、また腹が立つ。


「うわあああああっ!!」


 私は、朝空に向けて大声を出して、鬱屈した思いを発散させようと思ったが、叫んですぐ頭が痛んでアスファルトに蹲る。


 出来るなら。
 会社で結城に誘われた時間まで巻き戻すことが出来たなら!!


 ……あたしのバージンはそんなご大層なものではないけれど、だけど酒に酔った私を最後まで抱いたのが、雅さんへの気持ちを知っている息子の結城だということが、ショックであり激しい憤怒であり。

 
「なんでそんなことしたのよ、あの最低おと……頭痛いぃぃぃっ!!」



 その頃――。


「……やっべ……。あいつ忘れているなら、俺……滅茶苦茶悪い男じゃねぇかよ……。なんで昨日に限って、酔って記憶なくすんだよ……」


 ……結城が、頭を抱えていたことも知らずに。


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