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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon

12月31日――。
大晦日である今日は、私の誕生日。
……最悪だ。
私の誕生日に、かつてない最大級の不幸が襲った。
どうしていいのかわからない。
考えて解決出来るのかどうかもわからない。
ひとつだけ幸いなことがあるとすれば、今日から会社にいかなくてもいいということ。否が応でも結城と隣り合わせになる危険性はなくなったということ。
……会社が休みであることに憂鬱だった昨日が明ければ、会社が休みであることにほっとしている今日が来るなんて。
「下腹部が……痛い」
まるで生理の時のような疼き。
私は、知らないうちに結城と交わってしまった。
生涯にたった一度きりの初めての瞬間を、覚えていない。
酒に酔った……いわゆる酩酊(めいてい)状態の私は、結城を拒まなかったのだろうか。泣いて叫んで嫌がるのを、結城が力尽くで抱いたのだろうか。
……後者の方が私には、気が楽だった。
私も結城を受け入れたなど、ありえない。
結城がどんな顔で、どんな言葉で私を抱いたというの?
私はどんな顔でそれに応えたというの?
――衣里。
どうやって家に帰ったのかわからないが、気づけば私は自室のベッドで布団を被っていた。
――衣里。
雅さんの声に重なる結城の声に、私の身体が爆発しそうななにかの衝動を感じて、それを堪える度に頭が痛んだ。
結城とのことを痛みで消し去ろうとしているかのように。
それでも頭痛に耐えきれず、気持ちも悪くなってきたから、市販の鎮痛剤を取り出して、それをコップに入れた水で胃に流し込む。
このまま、すべてが流れていけばいいのに。
私は、なにもなかったかのように、今まで通り結城に接することが出来るだろうか。
陽菜が、香月と付き合いながら結城に友達として接したように。
「……陽菜とも、寝たんだよね、あいつ」
今更のように思い出した事実に、胃がきりきりとした。
「はは。あいつの友達は皆セフレって?」
悔しくて悔しくて、鼻の奥がつーんと熱くなった。
……雅さんに会いたい。
報われなくてもいいから、私の心は変わらないことを確かめたい。
結城に処女を捧げたからといって、私はなにも変わらないのだということを確かめたい。

