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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon
 


 ピンポーン、ピンポーン。


 こんな時に、来客か。

 もしかしたらお隣さんかもしれない。


 まだ薬が効かない頭を抑えて、ドアホンのモニターを見た。

 私が住んでいるマンションは、セキュリティーがしっかりしている。


「……っ」


 結城だった。

 私は慌ててその場で動かないようにして、居留守を使う。


 ピンポン、ピンポン、ピンポン。


 忙しくなる音と、ドアがバンバン叩かれている。


 なによ、こいつ!

 なにをしにきたのよ!!


「真下、いるんだろ!? おい、真下!!」


 私は怯む。


 結城が怖い。

 結城に会いたくない。


 誰か。

 誰か、ねぇ。


 私はテーブルに置いてあるスマホを手にした。

 着信履歴とLINE履歴は、結城と陽菜。


「陽菜……っ」


 陽菜に電話する。

 呼び出し音が止まった。


「陽菜、陽菜ぁぁ……」

『衣里、どうした?』


 強張った陽菜の声が聞こえる。


「どうしよう、陽菜」

『だから衣里、どうしたの!?』

「結城と、寝ちゃった……っ」


 結城がここに来て怖いから、助けてではなく、私が陽菜に言ったのは、結城と寝たことについてだった。


 どれほど時が経ったのだろう。
 いつの間にかピンポンが消えていた。

 静かなる部屋の中で、カチャカチャと音がしてから再び、ピンポンと響く。


『衣里、陽菜だよ』


 急いで駆けつけてくれたのか、陽菜の髪は乱れて息も乱れている。

 ドアを開けた時、陽菜が私を抱きしめた。


「衣里、顔色が悪い! なにか食べた!?」

「食べてない、けど……」

「卵かゆ作ってあげる。冷蔵庫のもの使うわよ?」

「う、うん……」

「衣里は座ってて。辛いなら横になっててもいいから」


 陽菜は、いつもはほんわかとしている女の子だが、いざとなったら強い。

 そして私は、いざとなったら弱い。


 やがてぐつぐつとした音と良い匂いが漂い、二食抜かしていた私のお腹から音が聞こえ始めた。

 
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