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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon
 

「はい、お待ちどうさま」


 にこやかに笑顔を向けて、陽菜が鍋に入れたおかゆを、テーブルに座っている私の前に置き、近くに座った。

「はい、食べて?」

 陽菜はうちの食器棚のどこになにがあるのか、もう自分の家のように知り尽くしている。


「おいし……」

 レンゲに入れたかゆをふぅふぅして食べると、なんだか幸せで涙が出てきて、止まらなくなった。

「陽菜、ごめん。私昨日、陽菜に冷たいこと言って謝ってもいないのに、都合のいい時ばかりこうやって陽菜の優しさに甘えてごめん……」

「あたしは聞いてないよ? 昨日の衣里も、いつもの優しくて頼りになる衣里だった。だからほら、なかったことを悔やまないで?」

 優しい、陽菜。

 陽菜は昔から、本当に優しくて。


 ……涙が止めどなくこぼれる。


「陽菜、私……結城と寝ちゃったの」

「うん……」


「二日酔いが酷くて、私初めて酒に飲まれて。そんな私を、結城は抱いていたの」

「うん」

 俯いてぼそぼそと言う私の頭を、陽菜が手を伸ばして優しく撫でてくれる。

「私は、雅さんが好きなのに」

「うん」

「結城は、陽菜が好きなのに」

「……うん」

「私、セフレに成り下がるのかなあ。こんな関係、嫌だ」

 顔を両手で覆い、嗚咽混じりに泣いてしまった。

「雅さんが知ったら……」

「衣里は、会長に依存しすぎかもしれないね。会長の名前で、前に進むことを、自分でセーブしているようにも思える」

「え?」

「衣里が元気がないのに気づいたのは会長だった。会長が結城に、衣里を元気づけさせて欲しいって頼んだんだって。……衣里。次の恋をしてもいいんだよ」

「……」

「結城も。ふたりとも前を見てもいいんだよ。きっとそれは会長の願いでもある。だから衣里は会長に悪いと思うことはない」

「結城を押しつけたってこと!?」

「違う。結城だから会長は推したんだと思う。そうじゃなかったら、あたしを呼ぶでしょう?」

「でも、だからといって、なんで私と結城!?」

「衣里は、結城が嫌い?」

「嫌いじゃないけど……。だけどまだ恋だとも自覚していないのに、身体の関係が先なのは……」

 陽菜がくすりと笑った。

「あたしと朱羽も、始まりは身体の関係だったんだ」

「え……?」
 
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