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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon

「その前の出会いがあったの、あたしは全然忘れていて。朱羽が誰かも知らないで、あたしが朱羽を誘って抱いて貰った時、朱羽は中学生だったんだ」
驚きすぎて、私の涙が引っ込んでしまった。
陽菜が、香月を誘う?
「あたしにとっては黒歴史でね。記憶の奥底に閉じ込めて封印していたのに、朱羽が上司としてやってきた。あたし、凄く焦ってどうしていいのかわからなかった」
……始めから香月は陽菜しか見ていなくて、陽菜も香月を意識していて。
男と女の意識が、既に確立されていたのか。
「意外……。陽菜、男を誘うように見えないのに」
「うん。結城が絡んだ過去に衝撃的な事件が起きて、その反動で月一回、満月限定でビッチになってたの、あたし」
「陽菜……」
衝撃的なことを、穏やかな顔で陽菜は言う。
「満月の日にセックスしたくて仕方がなくなる。気が狂いそうになって。それを大学の時から結城に助けて貰ってきたの。あたしと結城は、そういう関係だった。あたしは、結城の優しさにつけこんで、結城を縛り……自分の苦しみを結城を使って癒していた、酷い女なの」
私の心の中で、なにかがカタリと音がした。
「結城に好きなひとが出来たら、この関係を解消すると先に条件づけて、結城の気持ちを見ないふりをしてきたの。今まで」
「………」
「そんなあたしを朱羽が救ってくれた。逃げるな、戦えって。満月の時、結城とセックスに流されることで逃げていたあたしは、忘れていた過去を思い出して、満月を克服出来た。それが、衣里に結城をお願いした、あの日だった」
「陽菜……」
「言えなくてごめん。今なら言えることも、今までは言えなかった」
陽菜は……苦しかったんだろう。
いつも太陽のように皆ににこにことして、バイタリティーに溢れて仕事に力を注ぎ込んでいたのは、そうした秘密を隠そうとしていたのか。
闇空に煌めく月のように、相反したものを抱えて――。

