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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon

「……可愛くなんかっ」
慌てて顔を上げると、そこには……今まで見たことのない"男"の顔をした結城がいた。
その眼差しがあまりにまっすぐすぎて、熱すぎて……私が思わず手で顔を隠すと、その手を取られてさらに顔を見られる。
「ゃだっ、見ないで……っ」
そのままずるずると床に座ると、結城も屈み込んだ。
「見ないで、見ないでったらっ」
恥ずかしい、恥ずかしい。
結城を意識しているというのが、丸わかりじゃないか。
「いいじゃん。俺が見たいんだから」
「見るな、馬鹿っ」
「あははは……」
結城は私の髪を耳にかける。ぞくっとして身震いした私を、軽く笑いながら言う。
「昨日、俺が抱いたのは……、同意だったはずなんだけれど」
結城は苦笑する。
「ど、同意!?」
黒い瞳がしっとりと濡れている。
……ああ、なにか記憶がある。これは。
――お互い、まだ忘れられなくても……、それでも少しずつ……、ゆっくりと時間をかけながら、一緒に前を見て歩いて行かないか。
これは、結城の声。
――お前が真下家に戻って、会社に戻ってこないかと思って、ぞっとした。その時俺は、お前が傍に居て当然と胡座をかきすぎていたことに気づいた。そして俺は、お前とずっと一緒に居たいと思った、改めて。
――香月にも言われたんだ。望みすぎて、近くにあるものを見失うなって。俺が今、こうやって社長をしながら笑ってられるのは、真下、お前のおかげなんだ。
――俺のすべてをお前は見ている。だから今度は、お前のすべてを俺に見せてくれないか? 親父ではなく俺が、お前を支えたい。
あれは、陽菜と香月が帰り、結城とふたりだけの二次会のバー。
私は陽菜に八つ当たりをしてしまった罪悪感やら、香月の目が怖いやらで、ハイテンションで飲み過ぎていた中で、カウンターで隣の席に座った結城に、言われたんだ。
付き合うというものより、まだ前の段階だったけれど。
……多分、記憶が間違っていなかったら。

