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Oshizuki Building Side Story
第1章 Shining bright Moon

――そりゃあいつも手を握っているからね。
そうしたさりげないところから、完璧なものを用意してきちんとキメてしまう朱羽は凄いと思う。
――キメれてないよ。慌てて買いに行ったんだから。本当は薔薇の花束でも用意して、その中に忍ばせて置くか、シャンパングラスの中に沈めておくか、考えていたのに。
朱羽はロマンチストなんだろうと思う。
あたしはそういうのに疎いから、朱羽がしてくれていること、考えてくれていることが、新鮮すぎて喜びも倍増で。
――陽菜は、手口をよく知らないから、薔薇の花一輪でも結婚詐欺師とかにコロリといっちゃう気がする。俺、もっとあなたをきちんと捕まえてなきゃいけないな。指輪だけでは安心出来ない。
……朱羽だから、なにをされてもコロリといくんだけれどね。
あたしの恋人は、あたしがどんなに彼が好きなのか、よくわかっていない気がする。
キラキラと光るタンザナイト。
この石があたしの元に来てくれたと同時に、朱羽が結婚というものに具体的な期間を出して、それに向かって進む婚約というものを口にし、形になったようなもの。これは朱羽の誓いでもあった。
信じていなかったわけではない。
別に心配していたわけでもない。
結婚という形に縛られていたわけでもない。
それでも、ただのファッションリングではなく、あたしの人生を縛る、重要な束縛アイテムだとわかった時、あたしは感激して喜悦したのだ。
口約束から現実に移行した、その瞬間に立ち会えたことを認識した。
たかが指輪なのかもしれないが、朱羽がくれた特別な指輪で、ようやくあたしの心も、彼に縛られて離れられなくなったように思えた。
まるでドMみたいだけれど、指輪によって彼に従属することが出来て嬉しいと感じたのだ。
「あたしのところに来てくれて、ありがとう」
朝露のように消えて無くならない、あたしの指に残るタンザナイト。
これは現実なのだと実感する度に、嬉しくて。嬉しくて嬉しくて、またちゅっちゅとキスをしていたら、突然背後から抱きつかれ、首筋に熱い唇を押し当てられた。
「……なに、可愛いことしてるの?」
気怠そうな色っぽい声が、あたしの鼓膜を震わせる。

