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Oshizuki Building Side Story
第3章 praying for Moon

だけどその挨拶があるから杏奈だとほっとするこの不思議。
絶対、この不思議な美人さんは飽きそうにもない。
「ねぇ、鹿沼ちゃん。宗司と木島くん来ていたでしょう。杏奈びっくり! しかもなになに、ふたりとも恋愛!? きゃーっていう感じ」
杏奈はまるで人ごとだ。
「……杏奈はなにも思わなかったの?」
「んー?」
「向島専務と木島くん、どちらに相手がいるのが嫌?」
杏奈の大きな瞳が揺れたと思ったのは気のせいだろうか。
杏奈はその目を細めて、からからと笑い出す。
「やだなあ、鹿沼ちゃん。杏奈は仕事一筋だよ? どうこうなるわけないでしょ?」
「どうこうなったらいいなあとかは、思わないの?」
「なるわけないじゃん。やだなあ、鹿沼ちゃん。香月ちゃんもそう思うでしょう?」
朱羽はなにも答えなかった。
結城がプログラマーの増員について、杏奈に、朱羽の古巣忍月コーポレーションか、杏奈の古巣の向島開発のどちらがいいか、と訊ねた結論はまだ出ていない。
ただ向島専務にクリスマス会の時に打診してみたところ、拒絶ではなかったと後で結城に聞いた。
杏奈の決断によって、向島専務も杏奈と接触できる機会を持つことになる。つまり、杏奈と向島専務の復縁も、夢ではなくなる。
それをわかっているはずの杏奈は、どう答えるのだろうか。
祈願内容を人前で暴露された、スーツ姿の男ふたりが、恥ずかしいほど大声で言い争って出てくる。
出来れば他人のふりをしたいくらいだ。
「だから! なんでお前が縁結びの神社に来るんだよ!」
「それは俺の台詞っす! 復縁ってなんっすか!」
「お前こそ、恋愛成就ってなんだ、お前は良縁成就だろう!」
「専務は、悪霊退散っでいいっす! 復縁はひとりしかいなかったじゃないっすか。大の大人が復縁など……」
「俺だってやり直したい女がいるんだ!」
「しっしっす! 女は新規の恋愛が一番っす!」
ふたりはあたし達に気づいていなさそうだ。
「そっか……。宗司はやり直したいひとがいるんだ。モテるから、選り取り見取りだね」
そう笑った杏奈の笑顔が寂しそうに見えたのは、見間違い?

