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Oshizuki Building Side Story
第3章 praying for Moon
 
 

「なんでここにプーがいる!」

 人前でプーと呼ばれるほど恥ずかしいものはなく。じろじろと奇異な眼差しで見られる、その視線が痛い。

 朱羽が、新年最初に眼鏡をキランと光らせて、冷ややかに言う。

「あけましておめでとうございます、去年は本当に申し訳ありませんでした。今年は心を入れ替えますのでよろしくお願いします、くらい言えないんですかね? ひとの婚約者をどこぞの蜂蜜狂いの黄色いクマのように」

「婚約者! お前、プーと結婚する気か」

「はい。俺は最初から間違えないですから。あなたより幸せになる自信があります」

 どこか高飛車に出る朱羽と、なにやら悔しがる向島専務の横で、木島くんがしゅうしゅうしながら杏奈に言っている。

「杏奈さん、綺麗っす。この後のご予定は?」

 "杏奈さん"?

 それに食いついたのは、朱羽と話をしていた向島専務だった。


「おいこら、木島! いつの間に"杏奈さん"だ!?」

「うるさいっす! 年末杏奈さんと"気持ちいいこと"したっす!」

「気持ちいいこと~!? 杏奈、お前こんな男に許したのか!?」

 杏奈はうるさそうに片目を細めると、一歩下がってあたし達全員に、ぺこりと頭を下げた。

「あけましておめでとう、しめましてさようなら。じゃあね、鹿沼ちゃん、香月ちゃん。あさって、また会社で!」

「あ、杏奈さん、ご予定は……」

「杏奈、断じて俺は認めないぞ!」


 騒がしい男ふたりが、杏奈の後をついていった。

 まるで腰巾着。
 黄門様について回る、助さん格さんにもなりきれない……、どこまでもコメディな凸凹コンビ。

「……。杏奈と木島くんが気持ちいいことしたというのも気になるけど、向島専務、随分砕けたよね。これは……木島くんのおかげ?」

 ダークホース木島。杏奈を攫って逃げ切るのか。

 それとも杏奈の表情を曇らせた向島専務が、復活愛を押し通すのか。
 
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