この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Oshizuki Building Side Story
第3章 praying for Moon

今さらじゃないか。
年末、衣里と連絡がとれないで半狂乱になっていた結城を、悩める衣里の家に送り届けたのは誰だと思っているんだ。
衣里からは、正月LINEが来た。
『最後までしてなかった。けど……時間の問題かも』
時間の問題ってなんだよと返信したのに、ぶっちして今日、なんともお化粧ばっちりで現われ、杏奈とはまた違う美人さんに振り向く男性参拝者も多い。
衣里は、結城には言っていることと態度が違う、ツンデレさんなんだね。
あんなに可愛い乙女の顔をしてるのに、毒ばかり吐いている。
でもきっと、結城ならそんな衣里をわかってくれると思う。わかって欲しいと思う。……満月に苦しむあたしを、丸ごと受け入れてくれた結城だから。
「陽菜、こ、これはね、会社の……」
「そうそう、か、会社の祈願に……」
「……縁結びの神社に?」
朱羽が訝しげに聞く。
「し、知らなかったんだよ。な、真下」
「そ、そうそう。知らなくて」
「知らないのに、家からこんなに遠いところに来たんだ?」
今度は意地悪くあたしが聞くと、ふたりはしどろもどろ。
あたしはぷはっと吹き出しながら言った。
「別にいいじゃない。去年までは三人でお参りに行ってたんだもの。あたし達仲がいい同期でしょう?」
明らかに仕事納めの時と違うふたりに、あたしは持っていた手提げ袋から、ここで買ったピンクのお守りを衣里の手に握らせた。
『縁結び』と刺繍されている。
「衣里にあげる。一番近くにいるひとに素直になれますように」
「え、え!?」
朱羽も袋から、同じ刺繍が施された水色のお守りを結城に渡した。
「はい、これをあげます、結城さん。あなたが前に進めますように」
「ちょ、香月……っ」

