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Oshizuki Building Side Story
第4章 Brother complex Moon ①

「……どんな方なんですか、朱羽のお兄さん。確か上の音楽会社にいるんですよね、ひとり。上の会社……エリュシオンでしたか」
「ああ。結構有名人だけれど、お前聞いたことねぇか? 早瀬須王って言うんだけど」
え――!?
「早瀬、須王!? え、まさか音楽家の!?」
「ああ。なんだ知ってるのか?」
「モチです! あたし彼の曲好きなんですよ、スマホにも入ってます。彼が提供した歌手の曲も映画とかのイメージサントラも!」
あたしはポケットの中のスマホを取り出して渉さんに見せた。
「え、朱羽のお兄さん、早瀬須王なんですか!? というか、同じビルに居たんですか、彼!!」
興奮も興奮、大興奮だ。
「なんだカバ、お前須王のファンなのか」
「はい、めちゃくちゃ大ファンです。最初いいなあと思って耳にしていた様々な曲や音楽が、実は同じ作曲家が作ったもので! 彼が一年に一回年末ゲリラに出るというライブに、本気で行こうと思って、チケットぷあに電話したことがありましたが、電話が繋がらないまま五分で売切れ、ネットで買おうとしたら五万ですよ! さすがに諦めました」
「ふぅん? そんなに人気があるんだ、あいつの音楽」
「もう、渉さんも聞いてみて下さいよ。沙紀さんにも勧めて下さい。贔屓目なしで凄く心にきますから。……彼の音楽は綺麗なだけじゃないんです。なんといったらいいのかわからないけど、心にガツンとくるものばかりで。楽な生き方してないひとなんだろうなって思いました」
安楽で単調な音楽ではないのだ。
繊細で複雑で……、聞くひとの心に直接訴えてくる。
……恋愛の曲だったらさらに凄い。
歌詞なんかどうでもよくなるほど、旋律から好きでたまらない心情が溢れている気すらする。
まるで彼の最愛のひとに捧げているような、切ない曲――。
「だけど音楽家なのに、後継者なんですか!?」
とても驚きだ。
既に名声を得ている彼が、財閥入りとはミスマッチとも思える。
才能が埋もれてしまう。

