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Oshizuki Building Side Story
第4章 Brother complex Moon ①
 

「……まああいつは根っからの自由人だし、どう見積もっても後継者タイプではないけれど、俺が呼び寄せた。条件付きで」

 渉さんの顔にはありありと苦悶の色が浮かんでいる。

「朱羽を助けるために、俺が須王を追い詰めたようなものだ。あいつの犠牲で朱羽はお前と出会えた」

「須王さん、犠牲にしてしまったんだ……」

「元々あいつは、ジジイと俺のせいで、手放さないといけないものがあった。……今でも思い出す。あいつの泣き叫んだ声。それでも叶わないと知って、悔しくて悔しくて、唇から血を流すほど唇を噛みしめていた。あの時あいつ、高校生だったんだがな……」

「だけど渉さんは、きっと須王さんを苦しめることはしていないと思います。ご当主がしたことをフォローしたのでは?」

「……あいつは他にも色々抱えていてな、あいつの訴えを無視して俺は朱羽と共にアメリカに行っちまった。朱羽を庇えても、あいつらは放置していたんだ。だから俺がしたことは、朱羽を見捨てた奴らと同じ。だから恨まれても仕方がねぇんだけれど、朱羽の手前、他の弟達の話は出来ねぇし」

「大変ですよね、お兄さん」

 あたしも自分のことを思い出す。

 どんなに手間がかかっても、可愛くて面倒見てしまう……それが血が繋がった者で、似た境遇に居るのなら殊更だろう。

「俺を無視していた須王が、俺の話に乗ってOSHIZUKIビルに来るための条件がその女と一緒に働くことだった。フリーで生活出来るくらい稼いでいるのに、なに窮屈な組織に入ってるんだと笑いたくなるが」

「………」

「前に食堂で見たんだ。須王と、須王が好きな女。俺とカバが初めて会った、あの時の朱羽とお前を見ているようだ。……血は争えねぇな」

「あたし達、どんな感じだったんですか、渉さんの目から見て」

「朱羽のベタ惚れの眼差し受けてるのに、お前はちっとも靡いてねぇ。もうちょっとうまくやれねぇのかなと、朱羽を押っつけたくなった。そんな感じだ、須王も。なにすまして格好つけてんだと言いたいが、俺もそんなもんなんだろうな。ひとから見ればスマートにいってねぇ。沙紀口説き落としたのも何年もかかって、何度も投げられていたからな」

 渉さんは当時を思い出したように笑う。
 どんな格好悪くても、彼にとっては沙紀さんを手に入れるためのいい思い出にすぎないのかもしれない。
 
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