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Oshizuki Building Side Story
第5章 Coloring in a moon

「それより鹿沼。香月と三上は? ミーティングルームで打ち合わせしたいんだけど」
「杏奈は上で木島くん扱いていて、朱羽はサーバー室。あたし呼んでくるね」
「あ、陽菜。杏奈は私が呼んでくる。陽菜は香月お願い」
「了解」
きっと気を遣われたんだろう。
そりゃあ、左手の薬指にきらきら光るタンザナイトの指輪をして仕事をしているんだもの。
……あたしでも、気を遣うよなあ。
純粋に意味が込められた指輪をプレゼントされたことは嬉しいし、いつでもつけていたいし、今でも指輪を眺めてぐふぐふと笑う変なひとになってしまうことはあるけれど、それでも神聖なる仕事場に(しかも指輪の贈り主がいる横で)、これみよがしにつけているのはなんだかなって、急に我に返る時がある。
――駄目。外すのは許さない。
指輪を少しだけでも外そうとすると、目敏く見つける朱羽が目くじらたてて怒るから、もう半ば、皆に惚気を見せつけながら仕事をしているようなものだ。
――別にいいだろう? 結婚してからも、あなたも俺もシークレットムーンで働くんだから、今から皆の視線に慣れておいてよ。
結婚……。
「ふふ、うふふふふ……」
やばい、これなら完全に変なひとだ。
ひとつ咳払いをしてからノックをしてサーバー室を開けると、フロアよりも冷たい風が体を包んだ。
さぶ!
これなら冷凍庫じゃない。
その中で、キーボードをカタカタしていた朱羽は手を止めると、あたしを見上げて、眼鏡の奥の茶色い瞳を優しく細めて、端正な顔を綻ばせた。
その場は一瞬にして、極冬から暖春となる。
「会いたいって思っていたら、来てくれたね」
ああ、ふわりと花開くような、この笑顔にくらくらする。

