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Oshizuki Building Side Story
第5章 Coloring in a moon
 
 そのままでいれば、冷凍庫の主として相応しい氷の美貌なのに、あたしに向けるその笑顔が眩しくて、きゅんと心が疼いたあたしは、乙女モードが発動しそうになる。

 ……いけない、いけない。
 今はお仕事中。
 会社モードに徹せねば。

 シークレットムーンWEB主任として、私事で緩む頬をきりりと引き締め、あたしは朱羽に言う。

「結城が打ち合わせしたい……」
「陽菜、寒くない?」
「え? 寒いっていうレベルじゃ……ぶはっくしょん!」

 ……うう、この豪快な「ぶはっくしょん」ってなに?

 一応あたし女なのに。
 大好きな恋人の前なのに。

 くしゃみに恥じらいながらも、肌を突き刺すような寒さに耐えかねて腕を摩っていると、その腕を引かれたあたしの体が、ふらりと傾いた。

 そしてあたしは、椅子に座ったままの朱羽の膝の上。
 後ろから抱きしめられ、冷えた朱羽の頬があたしの頬にぴったりとくっついた。

 ふわりと漂うのは、嗅ぎ慣れたイランイランの香り。
 あたしを蕩けさせる、誘惑の香りで――。

「ここ会社……、朱羽……」

 ああ、会社なのに抵抗する言葉も弱々しくなってしまって。

「寒いんだろう? 俺もちょうど寒かったから、あなたの温もりで俺を温めて? 俺の温もりをあなたにあげるから」

 彼の腕に包まれながら耳元で甘く囁かれると、それだけでたまらない気分になって、喘ぐようなため息をひとつ零してしまう。
 
 すると、朱羽のひんやりとした唇があたしの首に押しつけられ、熱い舌があたしの肌を這う。

「は……ん、駄目。会社……」
「暖をとっているだけだ」

 朱羽のさらさらの髪が耳元を擽る。

 首から這わせられた舌は、あたしの耳を嬲り、ぴちゃぴちゃと音をたてながら、あたしは朱羽に食まれていく。

「ひゃ……ん、ねえ、誰かが入って来ちゃう……」
「ああ、そうだね。薄く開いているドアから、陽菜の可愛い声が漏れるかもしれない。だから声を我慢して?」

 冷たい空間で、スリルも手伝ってあたしは発熱する。
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