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Oshizuki Building Side Story
第5章 Coloring in a moon

 もっと、朱羽が欲しい。
 同時に……もっと、朱羽から求められたい。

 余裕あるところを見せるよりも、余裕なくあたしを求めて欲しい。
 あたしは彼にとって、今でも女なのだと、示して欲しい――。 

 やがてあたしは、濃密な長いキスにへばってくたりとしてしまい、朱羽の腕の中で乱れた息を必死で整えていると、あたしをぎゅっと抱きしめた朱羽は、すりと頬をあたしの頭にすり寄せた。
 

「あなたは、俺のものだ」


 緩やかな動きとは反対に、その声音には切迫感が滲み出て。


「いつでも俺は、あなたのことだけを愛してる」


 何度だって、朱羽のくれる愛の言葉は、あたしの胸をぎゅっと鷲掴む。

 彼の前では、仕事モードではいさせてくれない。
 有能な部下ではなく、ただの女にさせられる。

 ……彼と愛し合える、女で生まれてきてよかったと思わせられる。


「陽菜、愛してる」

 とろりとした瞳の奥に情欲の光を揺らめかせる朱羽に、魅惑されて。

 愛おしい――。

 再び吸い寄せられるように、朱羽の唇を求めたあたし。

 その時、あたしのポケットに入れてあるスマホが震え、現実に返る。
 舌打ちしたい気分なのを堪えてスマホを取り出すと、結城からのLINE。

『まだ?』

 そこであたしは、ミッションを思い出す。

 ミーティングルームに連れに来たのに、一体なにをしているんだ!
 ミイラ取りがミイラになってどうする!

「陽菜。俺のことだけ考えて?」
 
 甘い声と顔に、また参ってしまいそうだけれど。

 そりゃあ、ふたりきりならそうしますけれども、今は就業中。
 今のあたしは、結城のメッセンジャー。

 伝言を伝えないと。

「あのね、ゆう……」
「そんな顔で、俺を誘っているの? ん?」
「……っ」
 
 ……頑張れ、陽菜!
 死ぬ気で、この誘惑に立ち向かうんだ!

「あのね、結城が……」
「陽菜は、俺のこと好き?」

 朱羽は指輪をしているあたしの左手の薬指を持ち上げると、それに口づけ、これでもかというくらいの流し目を寄越してくる。

 最近、男の艶に満ちた朱羽の流し目は破壊力がありすぎて、最早凶器となってあたしにとどめをさしてくる。

「~~っ!」

 ごめんなさい。
 あたしももうKOです。
 使い物になりません。
 
 このまま、溶けちゃってもいいですか?
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