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Oshizuki Building Side Story
第6章 Flapping to the future!
 
「いや、だからな。朱羽は浮気など……」
「じゃあ教えて下さい、渉さん。前みたいに一緒に時間を過ごすことなく、勝手に出かけて、愛の行為というものをしなくなった朱羽は、飲んだ相手と気軽にLINEしてキスが出来る男なんですか?」

 ……渉さんは困ったような顔で、「いいや」とだけ答えた。

 静寂の中、ちりん、と風鈴の音がする。
 しかしあたしにはその音は、あたしの心の闇を宥めるだけの効果はなく、耳障りなものでしかなかった。

「なにかの間違いだと思うが……朱羽に問い詰めたのか?」
「……遠回しに。だけど、今夜話があると、少し不機嫌そうな顔で言われて」
「話?」
「はい。別れ話、かと思うんです」
「な……」

 あたしの唇が戦慄いてしまい、泣くもんかと気合いを入れて太股を抓る。

「タイムリミットまでなんとかしたいと、あたしなりにもがいてきましたが、なにをどうしていいのかわからず。あたしになにか原因があるのなら、直したいし朱羽に謝罪したいと思うんですが、朱羽は……」

――あなたの嫌なところ? ないよ。ないから困ってる。

「朱羽は責任感がとても強いから、結婚しようとあたしに言った手前、それを断る口実が見付からずに、困っていたのかもしれません」
「うーん……」

 渉さんは腕組みをしたまま頭を落とし、しばらく唸る。

「やっぱり渉さんにも、なにも言ってませんか、朱羽……」

 僅かな望みにかけたのだ。

 朱羽は優しいからあたしの悪いところは口にしない。
 だけどもしも渉さんに具体的になにか語っていたら、あたしはそれを直すように努力することで、また前みたいな関係に戻れるのではないか、と。

 朱羽のマンションで、もう……、ひとり涙で布団を濡らして寝たくない。
 きっと今の朱羽は、そんなあたしにすら気づいていないだろう。
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