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Oshizuki Building Side Story
第6章 Flapping to the future!

『ひまりん♡』に夢中になって、そちらに愛情を注いでいるのなら、あたしはもう……重荷にしか過ぎないのだろうか。
もう、毎日がドキドキきゅんきゅんした、あの蜜月期には戻れないのだろうか。
「カバ、お前はどうしたい?」
朱羽にも似たまっすぐな瞳があたしを射貫こうとする。
「あたしは……朱羽がまたあたしを見てくれるのなら前のように戻りたい。だけどもう望みがないのなら――」
……その先の言葉は、意気地なしのあたしの口から出てこなかった。
得る情報もなくて、消沈して朱羽のマンションに戻る。
一度シークレットムーンに戻ったけれど、あまりにも顔色が悪かったらしく、朱羽が出かけている間に早退させられ、あたしは素直に従った。
プライベートのことで体調不良など悪いけれど、あたしは仕事が出来る状態ではなかった。
結城や衣里は、日ごとやつれるあたしと疲れながら素っ気ない朱羽を心配して相談に乗ってくれようとしたけれど、それでも不安を口に出したらそれが実現しそうで避け続け、そして最終日である今日、意を決して渉さんに尋ねてみたのだ。
……無意味だったけれど。
シークレットムーンがある木場から近いところに、朱羽の高級マンションはある。彼の家に居候するようになって、朱羽のマンションは既にあたしの帰る場所となっていた。
元々広い部屋ではあったけれど、今は砂漠を彷徨っているような心地がするほどに、広すぎて泣けてくる。
今夜別れを告げられたら、もうこれでこの部屋に入るのは最後になってしまう――そう思ったら、目と鼻の奥がつんと熱くなった。
朱羽は、明日あたしに別れを告げたら、この部屋にすぐ〝彼女〟を呼ぶのかもしれない。
あたしが朱羽と思い出を重ねたこの部屋の中で、今度は彼女にあの熱を帯びた目で見つめ、そして――。
――ああ、陽菜可愛い。もっと、俺を求めて……?
朱羽が見知らぬ彼女を抱くと思ったら、心臓が引き攣るような痛みが生じて、あたしはリビングに入る手前で蹲った。

