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Oshizuki Building Side Story
第6章 Flapping to the future!

「いえいえ、いいんです。たっぷりとあなたと彼の仲を見せて貰いましたし、それが私への牽制でしょうし。ただ、おかしなアプリはダウンロードしない方がいいでしょう」
「は、はい。もうしません。本当に失礼なLINEを送ってしまい、すみませんでした」
俺は笑いながら、頭を下げて言う。
「では、彼によろしく。恐らく、また近くお目にかかれるとは思いますが」
俺は封筒を手に、道玄坂にある建物を出る。
陽が落ちる速度が遅い季節とはいえ、もう暗い。
戦利品を手に、足取りは軽やかに。
陽菜、待っていて。
寂しくさせた分、今度は笑顔にさせてあげるから。
帰り道、陽菜に帰るとLINEをいれても一向に既読がつかない。
会社に電話をかけたら結城さんが出て、陽菜は体調が悪そうで家に帰したとのこと。
慌てて陽菜に電話をかけるが、電源が入っていない旨アナウンスが流れて。
……なんだろう、このざわっとした嫌な予感。
それでも陽菜が元気に戻るために、俺は倍速度で寄り道をした。
コンビニの『バルガー』に寄って、陽菜が好きなプリンを買い、薬局で、あれこれと薬を仕入れ、陽菜に体力がつくようにと雑炊を作ろうと簡単に野菜と鳥肉を買って帰る。
俺史上これ以上ないというくらいの速さで用をすませ、吹き出る汗を拭いながらマンションに向かう。
「陽菜、ただいま!」
息を切らせて中に入れば、なにか……違和感に目を細める。
それは見慣れた光景が広がっていたからで。
……そう、陽菜と出逢う前の、俺の白いリビングが拡がっていたからだ。
もしかして陽菜は寂しくて、寝室にグッズを持ち込んだのかもしれない。
そんな必死な願いは叶わず、寝室にもどこにも陽菜はいない。
そして――陽菜の洋服も洗面用具も。
彼女の私物のなにからなにまで、彼女の痕跡そのものが……俺の部屋から消えて居るということに気づいた時には、あまりの恐怖に荷物をその場で落とした。

