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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

結局、ケーキバイキングに荒木さんは誘えなくて、木曜日に休みをもらって一人でホテルまでやってきた。
東京タワーにほど近いホテル。
湯川先生と何度か来たことがあるけれど、高級なホテルに属するようで、ドアマンがいたり、大きなシャンデリアがあったり、透明なピアノが置いてあったりして、とにかくキラキラ輝いている。日陰者にとっては眩しい世界だ。
けれど、一応、こういうところに出入りするための服一式は先生から買ってもらっているため、それを着てきた。
よくわからないブランドのワンピースだけど、淡いピンクの薄い絹のような手触りの布が幾重にもレイヤードされていて、歩くたびにふわふわ揺れるのが気に入っている。普段はめったに履かないヒールのあるパンプスは、ピカピカの床でカツカツ音を出す。
チケットを確認してから、エレベーターへ乗り込む。ケーキバイキングの会場は三十七階だ。
湯川先生と出会ったのは、入院した課長の見舞いに行ったときだ。心臓を悪くした課長の手術が無事に終わったので、皆で見舞いに行った病室に、担当医として心臓血管外科医の彼がいた。
相性の良さは、実際にセックスをしなくても、一瞬でわかる。サキュバスゆえの性質なのか、単なる一目惚れというものなのかはわからないけれど、それを湯川先生から感じた。
湯川先生も同じだったようで、私をひと目見た瞬間に「抱きたい」と思ってくれたようだ。
帰りに声をかけられて、夕飯に誘われて、そういう関係になった。

