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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

先生は最初「結婚を前提に付き合ってほしい」と私に伝えてきたけれど、私は拒否をした。
老いることのない私は、人間と同じような生活ができない。いつかは、人間ではないとバレてしまう。
それでもいい、と一緒に生きてくれた人はいた。
けれど、自分は老いるのに私は昔のまま。「仲の良い夫婦」が「親子」「祖父と孫」と世間から思われるようになるにつれ、彼は老いる自分を責めた。仕方のないことなのに、彼は自分を追い詰めて、狂って、死んだ。
だから、私は伴侶を必要としない。結婚もしない。
精液だけ男から与えてもらって、体だけの関係だと割り切って、そうして、生きていくのだ。
湯川先生には私の考えを伝えてある。けれど、先生は「それでもいい」と、体だけの関係を容認してくれた。他の男の存在も認めてくれた。
ありがたい、存在だ。
ただ、それと恋は別だ。
荒木さんを「いいなぁ」と思うのと、湯川先生を「いいなぁ」と思う気持ちは、違う。
トキメキが圧倒的に違うのだ。
「いらっしゃいませ」と頭を下げるウエイターにチケットを渡す。席まで案内してくれるので、ついていく。
三十七階は、ほぼガラス張りの展望台のような開けた空間で、東京タワーを一望できるようになっている。パーティ会場なのか、披露宴でもできそうなくらいの広さの空間の中央にケーキと飲み物、その周りにテーブル席が並んでいる。平日だが、人は多い。女性だけでなく、男性の姿もある。
「お連れ様はお待ちでございますよ」
「お連れ、さま?」
え、まさか、湯川先生?
甘いもの苦手なのに、来たの?
「どうぞ、こちらです」
しかし、案内された席に座っていたのは、湯川先生ではなかった。スーツを着たサラリーマン風の見たこともない眼鏡の男性だった。

