この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
サキュバスちゃんの純情《長編》
第5章 恋よ来い

大きな公園の近くにある、小さなカフェ。住宅街の中にあり、わかりづらい。
お店自体も玉置珈琲館よりも小さく、近所の人がメインのお客様らしい。たまに、公園へ行く人や帰ってくる人が立寄る、といった感じだ。
「へぇ、いいところだね」
席に案内されるときにケーキのショーケースをちらりと見て、荒木さんは笑顔になった。レアチーズケーキが陳列されていたからだ。わかりやすい。
荒木さんはレアチーズケーキとアップルマンゴーのタルト、コーヒーのセット。私はイチゴのショートケーキと紅茶のセットを頼む。
「ここにはよく来るの?」
「三回くらい来たことがあります」
喫茶店好きな宮野さんと、だ。私がケーキを食べ、宮野さんはコーヒーだけ飲んだ。そのあと、公園のベンチでボーッとするのが、宮野さんは好きだった。人がいないとキスをしてくるのには困ったけど、コーヒー味のキスは嫌いではなかった。
「月野さんは花火大会どうするの?」
「行きます。でも、浴衣を持っていないので、今日このあと買いに行こうかと」
「ドレスコードがあるもんね。あれ、総務の日向さんが勝手に決めたらしいよ」
へぇ……まぁ、たぶん、日向さんは浴衣を荒木さんに見てもらいたくて、そして、荒木さんの浴衣姿を見たくて、そんな理由でドレスコードを設定したのだろう。
「取引先のビルの屋上で社員交流も兼ねているみたいだから、楽しみだね」
「それは楽しみですね」
取引先の会社員くらいなら、酔ったフリをしてホテルに誘っても大丈夫だろうか……いや、関係が近すぎる。荒木さんにそんな姿は見せられないし、やっぱり帰宅途中でのナンパ待ちかなぁ。
既に、セフレは皆予定が詰まっている。相馬さんもダメだった。ケントくんはあれから全く連絡がない。私のことなんて忘れてくれているといいのだけど。
それにしても、来週はナンパ以外での精液確保が難しい。
「月野さん、スゴい。このケーキめちゃくちゃ美味しい」
満面の笑みを浮かべて、レアチーズケーキを頬張る荒木さん。八の字眉が、笑っているのか困っているのか、わからない。さすがに、今は笑っているとわかるけど。仕事中は、どっちなのかわからない。
……あぁ、本当に、似てる。そういうところも、似ているのだ。

