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サキュバスちゃんの純情《長編》
第5章 恋よ来い

「月野さんって、俺を見るときなんか不思議な表情をするよね」
「……え?」
「悲しい? 嬉しい? なんか、複雑な表情」

 ショートケーキを口に含んだまま、私は硬直する。甘すぎない生クリームが、粉砂糖のかかったイチゴが、口の中いっぱいに広がっていく。

「……そう、ですか?」
「うん。俺の勘違いかな?」

 勘違いじゃない。勘違いじゃ、ないです。
 サキタの営業部に派遣されて、最初に荒木さんを見てから、どうしようもなく、惹かれているんです。

 あなたが、叡心先生の若いときに、そっくりだから。最愛の人にそっくりだから――。

「荒木さんは……私の知り合いに似ているんです。だから、なんて言うか、懐かしくなっちゃうんです」
「それは、初恋の人とか?」
「……そう、ですね。そんなところです」

 そっくりだけど、違う人だとわかっている。
 叡心先生はもう少し毒気があったし、頑固だったし、性欲も強かった。全体的に骨張っていたし、指はゴツゴツしていたし、無精髭もよく伸びていた。背中だって、叡心先生のほうが広かった。

 そして、何より誰より、私を深く愛してくれていた。

 違う人だとわかっている。
 でも、止められないのだ。夢見ることを。生まれ変わりなんて信じていないけど、もしかしたらと願うことを、止められない。

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