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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花

 百貨店ですごく悩んで買った三万円の浴衣は、姿見ではまぁおかしくはない。白緑(びゃくろく)のシンプルな浴衣。芍薬の柄も、全体ではなく裾に多くあしらわれている。
 本当は五万円の牡丹柄も良かったのだけど、派手すぎるかと思って、やめた。
 緑青(ろくしょう)色の帯は文庫結び。髪は三つ編みを下のほうでまとめて、緩くお団子にして、髪飾りをつけただけ。

 翔吾くんなら「あかりは暖色系がいい」と言うだろうけど、緑系統の浴衣は女の子にはあまり選ばれない気がしたし、地味で私によく似合ったのだ。あまりの気合の入ってなさに、怒られてしまいそうだ。
 新品の下駄は鼻緒を直した。巾着にスマートフォンや小銭入れ、定期券、社員証などを入れて、部屋を出る。

 カフェデートのとき、荒木さんから待ち合わせを提案されたので、快諾した。日向さんを始め総務部の人は会場で準備があるらしく、先に行っているようだ。

 私の最寄り駅で待ち合わせ。荒木さんは時間の少し前には到着する性格だから、私も早めに出かける。

 足元でカラコロと音が鳴る。見れば、周りの若い子は皆浴衣を着て駅へ向かっている。花火大会へ行くのだろう。仲睦まじいカップルも、友達同士も、楽しそうだ。

「月野さん、こっち」

 手を挙げて居場所を知らせてくれる荒木さんは、瑠璃色と白のストライプの浴衣。よく、似合っている。ストライプは叡心先生も好きな柄だった。

「へえ、いいね、すごく。月野さん、浴衣似合うね!」
「ありがとうございます。荒木さんも、よくお似合いです」

 男の人が浴衣を着るならもう少し肉がついていてもいいかもしれないけど、歩いてくるときに見たヒョロヒョロの男の子たちよりはずっと似合っている。
 似合っている、なぁ。泣きそうになるくらい。

「じゃあ、行こうか」
「はい」
「改札もホームも混んでいるから気をつけて」

 荒木さんが自然に伸ばしてくれた手を、取る。もちろん、握手なんかではない。手を、繋いでいる。はぐれないように。
 ドキドキ、する。
 暖かな手のひら。その熱が、夢ではないと告げてくる。夢じゃない。
 私、荒木さんと――。

「大丈夫?」

 心配そうにこちらを見てくれる荒木さんを直視できなくて、困る。
 大丈夫じゃない。大丈夫じゃないです。
 心臓が保ちません!

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