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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花
隅田川に近い駅は、相当な人だかりで、前に進むのもやっとな感じだった。打ち上げにはまだ二時間もあるのに。
荒木さんが手を引いてするすると人混みの中を誘導してくれたおかげで、何とか目当ての会社にたどり着くことができた。
普通に歩いていたら、十五分もかからない距離だろう。でも、今日はその三倍くらい時間がかかった。
その間、ずっと手を握っていたので、汗でベトベト。それも、想い出になるだろう。幸せな想い出に。
「大変でしたねぇ」
「本当に」
社員証をつけ、「花火大会特設会場」と書かれた順路の通りにエレベーターへ向かう。玩具会社らしく、そこかしこに玩具がディスプレイされていて、面白い。
三つあるエレベーターの前には、社員証をつけた人たちが並んでいる。この会社の社員だろう。もちろん、皆浴衣だ。
「帰りも混みますかね?」
「何時間かは帰れないと覚悟したほうがいいかもしれないね」
それはナンパ待ちをするには好都合なのだけど、ホテルには行けないだろうなぁ。路地裏? 公園? 野外でセックスをすることを覚悟しておこう。
「月野さん、あまり飲んじゃダメだよ」
荒木さんの、優しい視線。
「さすがにこの格好で背負って帰るのはしんどいかな」
「……善処します」
「まぁ酔い潰れても、家は覚えているからちゃんと送り届けるよ」
「ありがとう、ございます」
その場合、精液確保がシビアになるので、なるべく遠慮したいです。日曜にナンパをするのは結構厳しいです。
荒木さんが送り狼になって、精液をピュッと出してくれるなら良いのだけど、期待はできない。手を繋いだのだって、はぐれたらいけないから、という理由があるだけで、他意はないはずだ。