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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

『恋人が結婚して欲しいと言うのであれば、結婚してあげたらいいでしょう。世の中には事実婚という便利な手段もありますよ』
「でも、私は歳を取らなくて」
『何年かなら騙せるでしょう?』
「男の人が一人だけは不安です」
『別に一人に絞らなくてもいいのでは? 一夫多妻制と同じように、一妻多夫制と考えたらいいでしょう』
「でも倫理的に」
『セフレを何人も抱えるあなたが倫理を語るなんておかしな話ですね』

 水森さんは、私の問いに最初から答えを用意していたかのように、淀みなく応じてくれる。皮肉を交えながら。

 なんで、それに安心しているのか、わからない。なんで腹が立たないのか。
 水森さんが、いつもと変わらないから、だろうか。

「それは、相手の貴重な時間を奪うことにはなりませんか?」
『貴重かどうかは、あなたが決めることではありませんよね? あなたが無駄だと思う時間は、相手にとっては貴重な時間かもしれないのですし、もちろん、逆も然りですから』
「水森さん」
『はい』
「私は……叡心先生を裏切りたくはありません」

 叡心先生だけを愛したままで生きていたい。それ以外の男の人に、心の中に入ってきてほしくない。
 それは、我が儘だろうか。

『村上叡心の前で水森貴一に抱かれたあなたがそれを言いますか。叡心を裏切りたくないと』
「……」
『失礼。意地悪なことを言いました』

 本当に。それは、意地悪な切り返しだ。
 けれど、他人から見たら――水森家の人から見たら、私の行為は、叡心先生を裏切るものだったのかもしれない。

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