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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

 頬に誰かが触れている。優しく、髪を梳いてくれる。
 時折、生温い何かが頬や額に触れる。それがキスだとわかるのに、時間はかからない。
 私を慈しんでくれているのだとわかって、安堵する。

 目をゆっくりと開け、ぼんやりとした視界にその姿を映して、笑う。

「……おはよう」
「おはよう、あかり」

 隣で寝そべっているセフレにぎゅうと抱きつく。いつもの香水の匂いはしない。

「健吾から、今朝、連絡もらって。一人にさせてごめん。寂しかったでしょ?」
「……寂しかったよ」
「うん、ごめん。今日はずっと一緒にいるから」
「そばにいて。どこにも行かないで」

 そばにいて欲しいと願う気持ちは、好意。私は翔吾くんを好ましいと思っている。それは、否定できない。

「……あかり?」
「もっと、キスして」

 キスして欲しい。キスしたい。
 触れて欲しい。触れていたい。
 この気持ちに名前をつけるなら、何? 何が一番、適切?

「好き」

 唇に触れようとした翔吾くんの顔が止まる。目が真ん丸になって、私を見つめる。喉が鳴る。言葉は、出ない。

「翔吾くんのことが好き」
「……」
「……ダメ、かな?」

 じわり、涙が浮かぶ。
 本気になっちゃいけないって思っていた。本気にさせちゃいけないと思っていた。
 だって、いずれは別れなくちゃいけないから。そんな気持ちがお互いに芽生えてしまったら、別れがつらくなるだけだから。

 でも、それでも、好きだと言ってくれるなら、私はその気持ちに応えたい。
 叡心先生を愛したように、私も好きになりたい。
 ――それが、許されるなら。

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