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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

 聞き間違いかと思った。
 強くもないお酒を飲んだから、耳がおかしくなったのかと思った。
 でも、美山さんがもう一度確認するかのように大声でそれを口にしたものだから、荒木さんの発言は確定のものとなった。

「ええっ!? お前、ほんとにセックス嫌いなの!?」

 ジョッキのビールを少しだけ飲んで、荒木さんは――頷いたのだ。

「嫌いと言うよりも、回数は必要ないっていうか。好きな人となら、そういうことをしなくても、そばにいられるだけでいいと思うんですよ」

 私の大好きな、困ったような笑顔で――実際、美山さんの発言に困りながら、荒木さんは「セックスは不必要」だと肯定した。

「わかる、わかる! 会うたびにエッチを求められると、体の関係だけのような気がしてイヤになるんだよねー!」

 営業部の飲み会なのにちゃっかり参加して、ちゃっかり荒木さんの隣をキープしている日向さんが同調する。
 先ほどまでは羨ましさで胸がいっぱいだったけど、今は絶望と安堵しかない。あの場にいて、日向さんのような意見は私には言えない。硬直してしまって、まともに返事ができないだろう。派遣さんばかりのテーブルで良かった。本当に良かった。

 それにしても、なんていうことだろう!
 荒木さんがセックス嫌いだなんて!
 そばにいられるだけでいいと思っているなんて!
 ――世も末だ。

 私の周りのお友達はかなりがっつくタイプなのか。肉食系男子というやつなのか。まぁ、セックスフレンドと言うくらいだし、性欲が強くて当たり前か。
 そんな当たり前のことに、今気づいた。
 でも、なに、本当に、草食系男子なんて、いたんだ? 生存していたんだ? 都市伝説だと思っていた。

 それが、私の好きな人だなんて、絶望的すぎる。

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