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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録

 二人とも、バカだ。大バカだ。
 なんで、「一緒に」幸せになろうとしないのか。
 なんで、人生を終わらせてしまうのか。
 遺す人を本当に愛しているなら、なんで、一番愚かな手段を選ぶのか。

 私は、叡心先生と一緒に幸せになりたかった。先生と、生きて、一緒に幸せになりたかった。
 老いていく先生の手を握って、歩きたかった。穏やかな海岸を。活気溢れる町を。
 そして、先生を、笑顔で看取りたかった。

 あなたと生きて、幸せになりたかったのに。

「バカ」

 貴録を閉じて、ティッシュを掴む。
 涙が溢れて止まらない。
 水森貴一に泣かされたわけじゃない。断じて違う。
 これは、先生を想う涙。先生への涙だ。

 私は水森貴一を憎んでいる。一生、彼を許すことはない。それでいい。それでいいのだ。

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