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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
基本的に、私はどこかへ出かけても職場にお土産は買わない。「誰と行ったの?」と聞かれて答えるのが面倒だからだ。その相手はたいていセフレの誰かなので、「友達と」と嘘をつくのが心苦しいからだ。
だから、「夏休みは家でゴロゴロしていました」が私の夏休みの過ごし方ゆえに、手ぶらで営業部へと向かう。
「あ、おはよう、月野さん」
途中、紙袋を持った荒木さんに出会う。朝から彼に会えるなんてついてる。
「おはようございます、荒木さん。お土産ですか?」
「うん。ちょっと父方の実家まで墓参りにね」
夏休みとは言っても、お盆だ。墓参りをして先祖を供養するのは、日本人として普通のことだ。驚きはしない。
一緒に並んで営業部へと向かう。
「そうだ、月野さん。今晩、仕事終わりに時間ある?」
「ありますけど、残業ですか?」
「いや、ちょっと話がしたくて。ご飯食べに行かない?」
これは、驚いた。めちゃくちゃ驚いた。
荒木さんから夕飯に誘われるなんて、初めてだ。驚きすぎて、思わず立ち止まってしまう。
「月野さん?」
「あ、いえ、大丈夫です、暇です!」
「なら、良かった。仕事の進み具合にもよるけど、今日は残業はしたくないから、なるべく早めに上がるようにするよ」
「わかりました。遅くなるようなら終わるまでスターカフェで待っています」
会社の目の前のカフェを指定すると、荒木さんは微笑んで「ありがとう」と礼を言ってくれる。ありがたいのは私のほうなので、と喉元まで出かかった言葉は飲み込んで、笑う。
これはもしや、チャンス到来!?
……なんて思ったけれど、現実はきっとそう甘くはないだろう。ただ、飲みに誘われただけだ。期待はしないでおこう。
だって、相手は淡白荒木さんだもの。何かあるかも、なんて期待するだけ無駄なのだ。