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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

 兎にも角にも、三人揃った。どこをどう見ても、何の関係者なのかわからない。恋人同士と兄? 恋人同士と弟? 女を巡るセフレ――恋人たちの修羅場だとは思えないだろう。
 ……これを修羅場と呼ぶべきなのか、いまいちわからないけれど。

「ええと、こちらが湯川望さん。夢宮総合病院で心臓血管外科の先生をしています」
「初めまして。湯川です」
「あちらが桜井翔吾くん。誠南大学経営学部の三年生です」
「初めまして、桜井です。いつもあかりがお世話になっています」
「こちらこそ、お世話になっています」

 二人それぞれ頭を下げる。火花は……散った、のかな?
 険悪な空気にはなりませんように! 殴り合いにはなりませんように!
 私は必死で祈るけれど、そんな私には気づかず、二人は飲み物のメニューを見ながら勝手に話をしている。

「翔吾は飲めるほう?」
「飲むけど、さすがに昼からは飲まないかな」
「俺も。じゃあ、お茶でいいか。和食が好きだって聞いていたけど、食べられないものはあった?」
「和食なら何でも食べるよ。あ、お気遣いどうも」

 一切敬語を使わないあたり、二人はお互いを何だと思っているのだろうか。
 仲間、ではないよね? ライバル? ほんと、何? 私はどういう顔をして、どう接すればいいの? 何が正解?

 湯川先生が手早く注文をして、早速麦茶が運ばれてくる。どうやら何かのコースに決まったらしく、前菜が綺麗に盛り付けられた器が目の前に置かれる。
 ……たぶん、緊張のあまり味なんてしないんだろうな。

「望さんはあかりといつから?」
「今年の二月。翔吾のほうが長いだろ?」
「じゃあ、二ヶ月しか違わないよ。俺は十二月だったもん」

 白和え、美味しい。鶏の香草蒸しも美味しい。
 ……二人とも、私と話すときとちょっと口調が違う。男同士の会話、なのだろうか。非常に口を挟みづらい。私は出された料理を黙々と食べるだけだ。

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