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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

 かわいい猫脚のバスタブに湯を張り、入浴剤を入れておく。バラの入浴剤は、薄っすら濁るピンク色。良い匂い。こっちの趣味はいいのに。
 服を脱いで、バスローブやバスタオル、下着を準備して、シャワールームのほうへ。ガラスが湯気で曇っていい感じに目隠しになっている。……お湯を使わないと発揮できない湯気カーテン、のようだ。

 シャワーでさっと汗を洗い流して、バスタブに入る。バラの匂いが、すごい。結構匂う。高級感溢れる感じだけど、洗っても匂いは取れなさそうだ。

「ふぅー」

 何だか、疲れた。
 二人の話を大人しく聞いて、二人が私の悪口を言うのを許容して、荒木さんのことを考えて、目まぐるしく変わる状況に疲れてしまった。
 二人が仲良くなったのは良いことだと思う。二人とも、ちゃんと私のことを考えてくれているとわかっている。それを幸せだと思うのに、どこかで申し訳ないとも思ってしまう。

「不甲斐ないなぁ」

 幸せを与えてもらっているだけのような気がして、本当に情けない。もっと違うやり方はあるんじゃないかと思うのに、思いつかなくてもどかしい。
 私は、ちゃんと、二人を愛せているだろうか。愛を、伝えられているだろうか。
 愛情の量が目に見えたらいいのに。そうしたら、きっと二人にもわかってもらえるのに。二人が好きなんだと。

 バスタブから出て、体と髪を洗う。シャワーで泡を流しながら、髪の毛がキシキシしないシャンプーはいいなぁなんて思う。さすが高いホテル。いいものを使っている。トリートメントも期待できそうだと思い、手を伸ばした瞬間――。

「んっ!?」

 背後から突然抱きすくめられた。
 日焼けした腕が腰を抱き、もう片方の腕が私の口を塞ぐ。耳の後ろで「しぃっ」と囁く声。

「望さんはまだ寝ているから、大人しくしようね」

 翔吾くんの声に頷くと、口を塞いでいた指がそろりと外される。そして、そのまま、胸へと降りていく。


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