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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「けれど、僕の兄は――彼女に直接血を与えていたんですよ。注射器からではなく、直接」

 ……あぁ、そういうことか。
 好みの問題。生理的に受け付けるかどうか。
 吸血鬼の彼女にとって、水森さんは好みではなく、お兄様のほうが好みだったわけだ。お兄様がメインで、水森さんがサブ。私で言うと、恋人とセフレ。

「まったく同じことを言われましたよ。好みの問題だ、と。僕の肌に歯を立てるより、兄の肌と血を堪能したいのだ、と」
「……気持ちは、まぁ、わかります」
「そうでしょうね。あなたも、僕は好みではないようですし」

 ええと。
 水森さんは、愚痴を言っているのだろうか? 拗ねているのだろうか? まだ、酔っているのだろうか?

「……好みであって欲しかったですか?」
「そういうわけでは、ありませんが……」

 水森さんは少し言い淀んで、唸る。何か思案している。
 そして、零れた言葉に、私はただただ驚くしかない。

「……もしかして、そうなのでしょうか?」

 そんなこと、私に聞かれましても!
 知りませんよ、そんなこと!
 そんな、不思議そうな顔で私を見ないでください!
 水森さんの気持ちなんて私にはわかりません!

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