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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「一夜限りの相手も、好みで見つけるのですか?」
「そうですね。抱きたい、抱かれたいと思わない人とのセックスは苦痛です」
「苦痛……」
「生理的に受け付けない人もいますから」
生きるために必要なら、生理的に受け付けない人とのセックスは厭わなかった。戦後しばらくたって、生活が豊かになるまでは、生きるために必死だった。そういう時代もあった。
今は、幸いなことに、相手を選ぶことができる。生理的に受け付けない人と交わることはほとんどない。
水森さんとセックスをするくらいなら、健吾くんかケントくんとするだろう。そういうものだ。
「苦痛でも、好みではなくても、精液が必要なら、あなたはきっと男を惑わすのでしょうね」
「……生きていくために必要なら」
水森さん?
さっきから、何が、言いたいのですか?
まさか、私とセックスをしたいだなんて、言わないですよね?
「あぁ……僕は、血を提供していたのですよ」
私の訝しげな視線に気づいて、水森さんは力なく笑った――ように見えた。
「以前、話したでしょう? 知り合いに吸血鬼がいた、と。彼女に血を提供していたんです」
「血、を……」
「あなたにとっては、精液と同義ですね。しかし、血を提供するためにセックスは必要ありませんから、ただ……注射器で採血されていただけですよ」
なるほど。首筋をガブリ、というわけではなかったのか。医療関係者なら、採血をするのも手慣れていただろう。
……その血は、コップに移してから飲むのだろうか。注射器のまま吸うのだろうか。血液は冷凍保存しても味は劣化しないのだろうか。血液型によって味は異なるのだろうか。
そんなことが気になる。非常に気になる。血液は、精液とどう違うのだろう。
でも、水森さんに聞いたら「あなたは阿呆なんですか」と言われるのが落ちだから黙っておく。水森さんにそう言われるのは、何だかムカつくのだ。

