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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏
我ながら、暴言だとは思う。けれど、そういうことだ。サキュバスに興味がある、ということは。
結局のところ、その先の行為を期待しているだけではないのか。
吸血鬼だから、直接血を飲んでもらいたい。サキュバスだから、精液を搾り取ってもらいたい。――それらの行為を求めるのは、研究対象だからなのか、好意があるからなのか。
それは私にはわからない。水森さんにしかわからないことだ。
「……水森貴一の日記を初めて読んだとき」
水森さんがポツリポツリと言葉を落とし始める。
「小説を読んでいるかのような、そんな現実離れした世界を想像していました。けれど、村上叡心の絵を見たとき、それが嘘の世界ではないと悟りました」
水森さんの目が私を映す。オレンジ色の明かりは、ぼんやりと二人を照らし出すだけ。
「絵の中の女は魅力的で、蠱惑的で……水森貴一が彼女を求めたのも無理はない、身をやつしたのも当然だと思いました。だから、湯川が絵の中の女に惚れ込んだのも仕方がないと思いましたよ。でも――僕は、そんな二人を賢明だとは思えませんでした」
「……」
「人の妻、絵の中の女……そんな、手の届かない女に恋をすること自体、馬鹿げていると思っていました。そう、思い込みたかったのかもしれません。自分の気持ちに気づく前に。欲しいという気持ちが増長する前に」
二人とも、微動だにしない。静かに、水森さんの声が響くだけ。
「あなたは湯川の前に現れた。浮かれる湯川を羨ましく思ったのは、事実です。そして、僕は兄の恋人をいつの間にか好きになっていた、ようです。馬鹿げたことに、僕は欲しいものを我慢していただけなのかもしれません」
窓の外は眠らない街。いろんな音が当然のように聞こえてくる。クラクションの音、酔っ払いの声、たまに静寂が訪れる、夜の街の音。