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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏
「僕が欲しいと思った人は、僕以外の人のものになる運命なのでしょうね。あなたは湯川を愛し、冴子さんは兄を愛しました。僕は選ばれない。それは、水森貴一のときから変わらないのかもしれません」
吸血鬼の名前がサエコさん、なのだろう。
水森さんの目に自虐的な色が宿る。けれど、彼はわかっているはずだ。水森さん自身が水森貴一であるはずもないことを。欲しいものを手に入れることができないのは、水森家には何ら関係もないことを。
ただ、彼の性格ゆえの、結末だ。
「でも、僕は貴一のようにはなれません。女を手に入れたいからといって、友や兄から愛を奪うことはできないのです」
「……」
「どんなに物足りなくても、自分の気持ちに嘘をつくことになっても、あかりさんが欲しくて欲しくてたまらなくても――」
水森さんの意志は固い。
「僕は、貴一とは違います。あなたを手に入れるために、湯川を裏切るわけにはいきません」
あぁ、なんて強い人。
水森貴一とは違う。あの人の子孫なのに、水森さんは、強い。弱くない。「男は弱い生き物だ」なんて言いながら、あなたは、強い。
私は、それが、嬉しい。
「……あの人にも、水森さんのような強さがあれば良かったのに、と思います」
「僕もそう思います。貴一は弱すぎた。それだけあなたの、村上ミチの魅力が強すぎたのだと思います」
人を狂わせてしまう魅力なんていらない。ただ、生きていくために必要なだけの外見であれば良い。
「けれども、やはり……採血ではなく、直接血を飲んで欲しかったのですよね、僕は。それが好意かどうかはさておき」
うんうんと水森さんは頷く。
「そして、正直に言うと、あかりさんともセックスをしてみたい」
「……」
「ご心配なく。襲いませんよ」
思わず布団を抱きしめた私を見て、水森さんは意地悪く笑った。あぁ、いつもの水森さん、だ。