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サキュバスちゃんの純情《長編》
第12章 性欲か生欲か

 海、は私にとっては、この小さな海だ。海が広くて大きいものだなんて、水平線を見た今でも信じられない。
 海は小さくていい。そうじゃないと、叡心先生がどこへ行ってしまったのか……ずっと探さなければならないから。

 叡心先生が眠るのは、この小さな海の中。
 手を伸ばせば届きそうな、真っ黒な棺。

 何度、一緒にいたいと思ったことか。
 連れて行って欲しいと願ったことか。
 そう思いながら、何度、海の中へ落ちたことか。

 けれども、叡心先生は現れてはくれない。私の手を取り、海の中へと引きずり込んではくれないのだ。いつだって、邪魔が入る。誰かに助けられてしまう。
 それが、叡心先生の答え。
 生きろ、というメッセージ。

 生きてもいいのですか。
 幸せになってもいいのですか。

 あなたへの愛を忘れたくはないのに。
 他の愛を受け入れても構わないのですか。

 叡心先生は答えてはくれない。

 だから、私が、答えを出すしかないのだ。

 叡心先生への心の操を捨て去ることができるのは、私だけなのだから。

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