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サキュバスちゃんの純情《長編》
第12章 性欲か生欲か
余計なお節介なのに……何でだろう、すごく、嬉しい。
二人に会いたかったからなのか。
今日が大切な日だからなのか。
とにかく、嬉しい。
「翔吾くん、サッカーの試合は?」
「昨日だけだったから、今朝東京に帰ってきたよ」
「湯川先生、仕事は?」
「休みにしてきた。どうせ辞めるから、我が儘聞いてもらいやすくてさ」
つまり、今日は二人とも身動きが取りやすかったというわけか。全然知らなかった。
それにしても、この雨の中、タクシーはどこへ向かっているのだろう。尾道から離れていっている気がする。
「まったく。男同士で新幹線とか、ほんと勘弁して欲しいよ」
「しかも、何時間? 四時間近くも二人きりなんて、地獄だったよ……本当に」
その割には、仲良くなったみたいだけど?
悪態をつきながらも、お互いの口調は柔らかな気がする。気のせいではないと思う。
だって、私、二人が連絡先を交換していたなんて知らなかった。お互いには不干渉だとばかり思っていた。
二人が仲良くしてくれたら、私も嬉しい。嬉しいけど。
……でも、本当に、どこに向かっているのだろう。駅から離れたら、高い旅館と高いリゾートホテルしかなかったはずだけど。あ、新幹線の駅の近くかもしれない。ホテルたくさんあるし。
でも、一向に周りの景色が「街」にはならない。どう見ても「海岸」だ。クルーザーがたくさん見える。そして、タクシーは海岸から離れて小高い丘を登っていく。
「お客様、着きましたよ」
運転手さんからそう言われ、傘を差した翔吾くんにエスコートされてタクシーを降りる。そして、目の前に広がる景色と建物を見て、息を飲む。一泊四万も五万もする、有名人御用達の「高いリゾートホテル」だとすぐさま理解した。
「じゃ、行こうか」
湯川先生の目が「どう? こっちのホテルに泊まってみたかったでしょ?」と意地悪く聞いてくる。
確かに、一度は泊まってみたかったホテルではあるけれど! 派遣社員の安月給では絶対に手が出ないホテルではあるけれども!
「これだからお金持ちはっ!」
私の思いもつかないサプライズをやってのけるのだ。悔しいことに。
めちゃくちゃ庶民的なお土産のもみじ饅頭なんて、この白亜のホテルの前では霞んでしまうなぁと思いながら、笑顔の二人を睨みつけるのだ。