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サキュバスちゃんの純情《長編》
第12章 性欲か生欲か

「台風が過ぎたら、穏やかな海なんだろうね。瀬戸内は」
「あかり、勝手にいなくならないでよ。心配したよ、俺ら」
「それは同意見。ま、見つかったからいいよ。風邪引くから、行こうか」
「あれ、俺の傘? あぁっ、俺の傘!」
翔吾くんは風に煽られて転がっていく傘を拾いに走り、その間に湯川先生が私の肩を抱いて傘の中に入れてくれる。
……なん、で。
なんで、二人がここに?
「説明はあと。さ、ホテルに行こうか」
私が取ったホテルはこの船着き場から目と鼻の先なのだけれど、湯川先生は迷うことなく停車していたタクシーに誘導してくれる。どうやらここまでタクシーで来たみたいだ。
「望さん! 俺も! ちょっと、置いてくなよ!」
「……追いつかれたか」
湯川先生と私が後部座席に座り、翔吾くんが助手席に座る。湯川先生が運転手さんにどこかのホテルの名前を告げると、タクシーはスムーズに走り出す。
「湯川先生、私、ホテル予約してて」
「あぁ、キャンセルしてきたよ。キャンセル料も支払い済み」
「へっ!?」
「三人で泊まれるところをリザーブしてあるから、大丈夫」
「夕飯もあるみたいだよ」
「なんっ!?」
……根回しが良すぎやしませんか?
二人がこんなに狡猾だったとは知らなかった。
「健吾がすごい慌てながら、あかりがいないって連絡してくれて。ほんと、電話にも出ないし、俺も困ったよ」
「で、翔吾から連絡もらったあと、水森に聞いてみたら、きっと尾道の海岸だろうって。何で水森が知っているのか、あとで教えてね」
「で、新幹線に乗っている間に尾道中のホテルに電話して『月野あかりですが』って予約の確認してさぁ。ま、すぐ見つかって良かった。海岸沿いにはそんなにホテルないんだね」
「ついでに、三人泊まれる他のホテルに予約を入れたってわけ。俺は同じホテルでも良かったんだけど、三人部屋が空いてなかったからね」
狡猾というより、探偵みたいだなぁ、二人とも。
……なんて、感心している場合じゃなくて。
健吾くんに黙って出てきたことがアダになったか。水森さんも、今日が叡心先生と水森貴一の命日だって知っているから、湯川先生に伝えたんだな。前に会ったとき、連休の予定、カマかけられたし。
ほんとに、もう。
みんな余計なお節介だなぁ、もう!

