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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落
浅柄高校(アサツカ)に入学したばかりの頃はまだ色んな意味でこの場所に馴染めなくて、窮屈な思いをしていた。
学校辞めたっていいじゃん、っていう気持ちしかなくて日々憂鬱で友達と呼べるような友達も出来ず、やりたくもない勉強をする。
家に帰ったら帰ったで母は彼氏の家に入り浸り、父はギャンブルに遊び呆け、私は冷凍食品や即席麺で晩飯を済ませたら風呂に入り、死んだように眠る繰り返し。
眠りだって浅くて、落ち着かなくて、変な夢ばっかり見て起きて疲れて朝っぱらからまた憂鬱で、そしてそれは終わりを知らない。
今年唯一の幸福は席替えで窓側の最後の席を獲得したことしかないかも、と本気で思っていた。あっという間に時が流れて、気が付けばもう夏休みも終わってーー……今年これで終わんだろうなっていう予感だけで。
でも、その日は違った。
正確には、その日から変わった、だ。
ある日唐突に担任が消えた日。神隠しにでも遭ったみたいに消えたように思えた。私達生徒には教師のことなんて深く知る由もなくて、だからこそ驚いたけど、一時の盛り上がりだけですぐに冷めていった。担任の山中が強制わいせつ罪で捕まった、とか。へえ、って感じ。生徒に手出したっていうんだから笑いものでしょう。
そりゃあ、ね。
で、生徒間で手出された相手は誰なんだ? とか騒ぐ奴もやっぱり沢山いてうるさい期間だった。手出された女が誘ったんじゃないかなあ、ってなんとなく思う。
だって私の前の席の前田さん、山中の授業のときさりげなく山中に向かって手を振ったりしていたし、あとは女の勘で。そういうことをする女のにおいがした。
ーー私と同じような人間のにおい。
でも、彼女は私とは違う。
なにが、って聞かれたら全部、って答える。
『この度一年C組の担任と美術部の顧問を任されました、柳瀬 結貴(ヤナセ ユキ)です。以前は別の学校で非常勤講師と美術教室で先生をしていました。皆さんの芸術作品を見ることもですが、共に制作すること、皆さんを応援すること、個々の才能を引き出すこと、目標は沢山あります。どうぞよろしくお願いします』
これはついこの間のこと。
担任不在のまま二年になっては困る、と。まあバタバタと騒々しかった事件直後よりはだいぶ落ち着いて、とりあえず見繕った教師が彼だったのだろう。