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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制





ーー退屈な毎日が、少しだけ角度を変えて行く。文化祭当日、私はなぜかメイドの格好を強いられた。男子にではなく女子に、それが不思議なくらい怖かった。人の笑顔をここまで恐怖に捉えたのは多分初めてだ。

「橘さん、似合うね!」「メインキャストでお願いね!」「メニュー取ってくるだけでいいから!」とか、他にもなんか色々言われたけど半分以上忘れてしまっている。

お店の看板もテーブルもダークブラウン統一のシックな印象で、結構本格的なのかもしれない。

今日と明日が賑やからしいけど明日は私の担当ではないし、あったとしてもやらないし、今日だけだと堪えてお客さんの対応をした。

ケーキだとか珈琲だとか注文を受けて厨房側の人が作ったものをテーブルに運んで行く。

超絶美人ってわけじゃないけど他校のナルシスト野郎に口説かれる程度には好かれる顔らしい。強烈に鬱陶しい。

仕事ではない、けど、いまは仕事をしている役割で。客の前でため息をつくのはさすがに良くないだろうと堪えた。当然文句も言わない。

熱々の珈琲をメイド服にぶっかけられてもーー


「あー、ごめんねー! 拭くからじっとしてて?」


他校の男か。
知らない人くらいだ、私を口説いたり私に触れようとしたりするのは。

クラス中が凍るように冷たい空気に纏われたのを感じた。背後からの視線も痛いくらいに。くすくすと笑ってる女の声も、もう耳が痛い。

「どうしたのー? 橘さん、大丈夫?」

前田さんの声だ。相変わらず典型的なぶりっ子の甘えたような声。






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