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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制
柳瀬がその日帰ってきたのは深夜1時を回った頃だった。面白くもない深夜バラエティをぼけーっと見ていたら玄関が開いた音がして振り返ると、少し足元がふらついている柳瀬が「まだ起きてたんだ」と呟く。
「どうしたの、柳瀬」
「んー、ちょっと飲み過ぎ……、」
ーーあ!
「ーーぶなっ、ねえちょっとしっかりしてよ」
足元が覚束ないせいで倒れそうになった柳瀬の身体を支える。重い……全然力入れてないなっていうのが分かった。
「とりあえず横になろう?」
「ん」
「水、冷蔵庫?」
「うん」
朝はあんなだったのに帰ってきたらこれって一体何があったの。後夜祭終わってから何軒かハシゴしたなっていうレベルの泥酔。
顔はほんのり赤いし。
ちょっとお酒くさい。
冷蔵庫から水を取り出してリビングに戻る。ソファーにもたれかかっている柳瀬が虚ろな目で私を見た。
「橘」
「なに? ほら、水飲んで」
「ごめん、」
「え……っ!」
酔っ払いのくせして強い力で手首を掴み、私の身体を引っ張る。不意をつかれて蹌踉めく身体を支えるネジが外れてしまったみたいに、柳瀬の上に倒れ込んだ。
「ね、柳瀬大丈ーーん」
強引に唇を奪われ、後頭部をてのひらで押さえつけられる。
「名前呼んで」
「やな」
口を開いた途端、舌が滑り込んできた。昨日の優しいキスとは違って乱暴というか乱雑というか、理性のない口付けに思える。
「ん、ん」
「ーー単純」
「は……ぁ」
唇が離れたと思えば、私の腕を掴む手から力が抜けた。ぱたん、とレザーソファーに倒れこむ柳瀬の腕。
「え?」
まさか、と思った。
そのまさかの通り、柳瀬は規則正しい寝息を立てて眠っている。
嘘でしょ。
「……狡い」