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甘蜜トラップ
第4章 惰性と欲求
たとえばここで柳瀬と出くわしたら。
私はどうなってしまうんだろう。
たとえばここに前田さんが現れたら。
私は殴られるんじゃないかな。泣き技でまた瑞樹を私から引き剥がそうとするんだろうな。
なにが嫌ってそうじゃないと困ると思ってしまうところだ。私を悪役にしてくれないと瑞樹とのこの綺麗じゃない付き合いをいつまでも続けてしまう。
目は覚めているのに足が進まない。トンネルの向こうはずっと、まだまだ暗い。
「俺帰るわ」
「……あ、一緒に」
「悪い、走って帰るから今日は無理」
「そか」
外はまだ明るいけれど、9月も終わり頃。陽が短くなってきたな。
瑞樹が階段を駆け下りて行って、私はぼーっとその場に立ち尽くしていた。
窓から校門が見える。瑞樹はスマホを耳に当てて誰かと通話中か、振り向くこともなく帰って行った。ちょっと寂しい。もう少し欲しい。一緒にいる安心感みたいなもの。
一人で学校にいるのもいい加減飽きてきて帰ろうとしていると、下駄箱で誰かに呼び止められ、振り返るとそこには見覚えのある顔の男子生徒がいた。クラスメイトだ。名前が思い出せないため首を傾げた。