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痴漢脳小説2 ~ガールズバンドに男子の僕が入っちゃいました~
第2章 暖かい口に包まれて
「どうかした?」

 薄暗い車内の助手席からイズミさんの声。しまった、溜息を聞かれた。

「いえ…何でもないです」
「疲れた?」
「…大丈夫です」

 僕が『パンツァーカイル』に同行するようになってほぼ三か月。いまだにイズミさんは苦手だ。 
 だって表情変わらないし口数少ないし、何考えてるか分からないんだもん。

 メンバーでは唯一の免許持ちで、だから今も助手席に座ってくれているんだけど、だからと言って何か話しかけてくるでもなく、僕には話しかける技術も勇気もない。
 他の三人は後部座席で肩を寄せ合って眠っている。朝早く出発して神奈川県内の大きな駅を転戦したのだから、疲れていても無理はない。ストリートライブは盛り上がったり素通りされたりだった。CDは八枚売れた。これだけ頑張っても当初僕が予想していた「一日十枚」に届いていない。

「運転代わる?」
「いえ、イズミさんも寝ても大丈夫ですよ。僕は今日は何もしてませんから…」

 そう、僕は何もしていない。今日の僕は車の運転をして楽器の積み下ろしを手伝っただけ。ライブ中は何もすることがない。時々チラシを配ったりする程度。あと、時々写真を撮る。ホームページに載せるのと、この企画の記録写真だ。

 でも、それだけ。疲労度で言えば僕が一番低いはずだ。

「はい」

 声が聞こえて横目で見れば、包み紙を剥いた一口チョコが顔のすぐ横にあった。チョコを差し出してくれているのは助手席のイズミさんだ。

「あ…すいません」

 僕は戸惑いながらも大きく口を開ける。その中に放り込まれるかと思っていたチョコは以外にもイズミさんの細い指につままれたまま丁寧に僕の口元まで運ばれた。

「…タイチ君には感謝しているのよ」
「え?」

 突然のその言葉は一瞬僕の理解の範囲を超えた。
 街灯に照らされた暗い夜道を走る車。僕は運転に集中しながらも横目でイズミさんを見た。

「ちゃんと前見て。事故はダメよ」
「はい…すいません」

 ぴしゃり、と跳ね返されてしまった。いつものイズミさんだ。
 さっきの言葉は空耳か? 僕も疲れているのだろうか。

 しばらくお互い無言だった。後ろからは三人の寝息が聞こえる。梅雨時期に全力でパフォーマンスをした彼女達からは疲労とほんの少しの汗の匂い。制汗スプレーの缶がシーカさんの手からこぼれて狭い車内を転がる。
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