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蝶が舞う時
第20章 究極の依頼
年が明けて1月になり、菜摘は妊娠9か月目に入った。

予定日は2月15日となっているが、初産で双子の場合は予定通りにならないらしい。

俺は月2回のペースで大学病院に通院している。

抗がん剤治療や放射線治療は、菜摘が出産してから開始する予定で、痛みを抑える鎮痛剤のみを処方してもらっている。

今のところ余り変化は見られないが、悪化の方向に向かっているのは間違いない。

菜摘にこの話をする時期が迫ってきた。

菜摘は、精神的な支柱である俺が居なくなることを受け入れないだろう。

それに二人の子供存在が、菜摘を更に追い込んでしまうかも知れない。

俺の思考は堂々巡りをするだけで、対応策が全く浮かんでこない日が続く。


そんな矢先、菜摘が異常事態に陥った。

俺と菜摘が駅前のデパートで買い物していたら、突然菜摘が

「お、おじさん…大変…」

俺の腕を掴んで怯えた。

「どうした?」

「破水したみたい…」

「えっ、」

俺は菜摘のマタニティー服の下を見ると、確かに濡れていた。

「菜摘、駐車場まで歩けるか?」

「無理かも…」

俺はデパートの店員に事情を話すと、救急車を呼ぶ措置が取られた。

そして、俺と店員とで菜摘を後方の休憩室まで連れて行く。

俺は産科に連絡すると、受け入れ準備を始めると言われた。

菜摘は不安な表情で

「おじさん…破水したら出産しかないよ。まだ1か月早い…」

俺は菜摘の手を握り、

「大丈夫だよ。少し早めのご対面になるだけだ…」

「おじさんがついている。心配ない。」

菜摘は少し表情が和らいだ。

救急車のストレッチャ-が運び込まれ、菜摘は横になったまま救急車に乗せられた。

救急隊員に産科への連絡済みを伝えてから、俺も同乗して産科病院に向かった。

産科に着くと担当の女医が現れ、検査器具を菜摘に取り付ける。

菜摘は出産準備室で陣痛促進剤を射たれ、陣痛を待った。

「おじさん…なんか怖い…」

俺は菜摘の手を握って

「大丈夫だよ。おじさんがいるだろ…」

「出産の時は一緒に居てね。」

「ああ、一緒に子供達と対面しような!」

「菜摘はおじさんがいないとダメだから…」

俺は一瞬凍りついた。


「お、おじさん…お腹が痛くなってきた…」

「うっ、うっ、いたっ…」

担当の女医が入ってきた。

「陣痛が始まったようですね。」
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