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《愛撫の先に…②》
第2章 菜々美は菜々美
『用がないなら帰りますよ、菜々美』
抱き上げるか、肩を抱いて歩くかを迷っているかのような結城の指先が菜々美の肩を上下になぞる。

『まだ話の途中であんた菜々美ちゃんをかっさらう気?』
店員は言いながら結城の肩に手をかけた。

『かっさらう?人ぎきの悪い表現はつつしみたまえ』
結城は視線を菜々美から後ろの店員に移し観察しているかのよう。

『肝心なところで邪魔する奴はかっさらうで充分だ』

『かっさらうでも好きなように表現したらいい、俺は相手にしない――菜々美、帰りますよ』

『あはははっ!そういうのが【理想的】?それとも【高嶺の花】?
あんた菜々美ちゃんにそういう風に思われて可哀想っ過ぎっていうか〜。
彼なら理想的とか高嶺の花とか言わないでしょ。
あんた、菜々美ちゃんの彼氏じゃないと思とくし』

『たまごホリックのオムライスは美味しかったがプライベートの君は言葉をつつしむ必要がありますね』

結城は一度しか来店していないたまごホリックを覚えていたのだ。
そしてまた、目の前にいる男がたまごホリックの店員である事も忘れてはいないらしかった。

『オムライスは兄貴が担当だから関係ないし』

『ホール担当なら尚更お客様を大切にしなさい』
今はプライベートだという事はわかっているのだが、結城は長年ホテルマンとしてスイートタイムを築き上げた自信と仕事に対する熱意から今そういう言葉が出てしまったのだろう。

『プライベートで言葉をつつしめるかよ、人の女をとられそうになってる状況でさ冷静に考えられっかよ、え?理想人さん』
理想人さんと店員は結城を皮肉ってバカにした。

『――君は心から接客業を学びたまえ』
結城は店員の手を肩を振って振りほどき菜々美を抱き上げ歩き始めた。

『待てよ!』という店員の声に結城は菜々美を抱く両手に力を入れ走り始めた。
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