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《愛撫の先に…②》
第8章 愛撫の先に…


それから3時間後の6時過ぎ。

奈々美の肩を優しく揺すり起こそうとする結城。
白のワイシャツに青のネクタイ・グレーのスラックス姿で黒のエプロンを身につけた彼特有の朝のスタイルだ。

『……うっ…嫌っ、触らないで…』
奈々美は寝返りをうちそう呟いた。

『……やけにうなされていた、奈々美起きないと遅刻です』
彼女のセリフに彼は触れるのをやめ声だけで起こそうとする。

『やだ…近寄らないで…誰か…』
身をよじり逃げようとする。

『奈々美………』
彼は哀しそうに下唇を噛み目を細めうなだれた。
台所からコンソメスープが煮えたぎっている気配に彼は素早くガスを止めに足早に歩く。

『誰か…ううん行き先も言ってない…誰も助けになんか来ない…』
すすり泣く声がする。

『…寝言…?奈々美……』
彼は先ほどの彼女の言葉の数々が自分への拒絶ではないとわかり安堵したがレイプにより受けた心の傷はより深いものだと考えた。

彼女には無理やり入れられたあの男達の精液が今も…
やりきれない…
やりきれない…
だけど奈々美は俺と翔子を疑っていて俺が手を差し伸べても余計に彼女を追い詰めるのではないか…?

白いカップに注ぎながら結城はそんな事を考えていた、珍しく注ぐ時少しこぼしてしまう。

『もしも彼女が宿した他の子の父親に俺はなれるだろうか?それを素直に受け入れられるのか?』
汚した箇所をティッシュで拭き手がとまる。

6時10分、壁をみた瞬間その時刻に我に返るかのように彼は再び奈々美を起こそうとしていた。


30分後には結城に送られバスローブの身なりの奈々美が白い家に入り身支度を始めた頃になる。
顔にはマスク・首すじのキスマークには無数のカットバンを貼った。

数分後、アサヒコーポレーション前。

『奈々美…仕事を投げ出して早退する等許されないが憔悴しきった君を観ていられない…無理はしないでほしい…夕方迎えに行く』
結城が奈々美の右腕に左手を添え言う表情は真剣そのものだ。

『迎えになんて…』
それは拒絶でもないのか相手への気づかいなのか…?

『俺がそうしたい…スイートタイムで寝起きしてもらう…気をつけて』
心配そうに目を細め唇をかみしめる結城は彼女に手を振り会社路肩に停めた車を発進させ加速させていく。

車を見つめていた奈々美は小さく呟く、『結城さん』と。

不安でたまらない…
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