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《愛撫の先に…②》
第1章 あたし磨き
『終業前に持ってくるんじゃないわよ、相沢』
パソコンの電源を落とした陽子が立ち上がる。

『陽子には関係ないじゃん、さっさと帰れば?』
相沢が陽子を振り返り睨む。

『相沢も高橋も終業だ、
帰りなさい。
そのファイルは午前中に頼んだものだが?
江崎と相談して作成しなさいと――』
課長が忘れ物を取りに戻って来たのか室内にいて聞いていたのだ。

『課長すみませ〜ん、
今から2人でやります』
悪びれるような感じはなくうわべだけの相沢の謝罪。
嫌よ!
相沢さんと2人での残業なんて!

『課長、あたし1人で残業します』
残業はしたくないが相沢と2人きりは免れたいと必死な菜々美。

『菜々美!』
陽子が食い下がる。


帰れと言われれば仕方なく菜々美を振り返りながら部屋を出る陽子。
呆れるため息の課長。
舌をだしクスクス笑う相沢。

残業の元となった作成データを保存しパソコンの電源を切る頃には20時前だった。

必要最低限の灯りの廊下を走りながら昨夜の泊まりのバッグが邪魔になり、
足をとられそうになる。

誰もいない会社なんて不気味…

もう1つのバッグから着信で外の敷地内で電話に出る。
『結城さん…』
『もう少しでそこに着くから動かないで待っていなさい』

今日はマンションに帰るつもりでいた菜々美は、
19時以降の彼の電話にわざわざ迎えになんて悪くて断っていたのだ。

『結城さん…
そこを動くな…なんて、
あたしときめく』


それから10分、
1人きりの寂しさからかシルバーの車から結城が降りるとパンプスの音を響かせ走ってく。

『結城さん、結城さん――』
『走ると転びますよ』
世話がやける――
というかのように苦笑し両手を広げる彼はやはり終業時のスーツ姿だった。

『かわいい仔猫のよう…』『えっ』

『駆けてくる姿が似ている…ふふっ』
『仔猫よりあたし大きいです』
『あはは』

食事へと向かう車の中で温かい車内にホッとする。
『今夜も泊まっていきなさい、
疲れた顔をして気になりますから』

結城さん…
甘やかされてる?
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