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《愛撫の先に…②》
第8章 愛撫の先に…
通常のエレベーターがすうっと開きカタカタンというカートとコツコツという靴の音はすぐに絨毯でかき消された。

『お客様』
パンツスーツの女性従業員だ。

あたし…?

『あたし…私の事ですか?』
奈々美は振り返り立ち止まる。

『オーナーからです、熱い内に召し上がりください』
にこりと笑い軽くお辞儀をし絨毯の上でも慣れたようにカートを押す。

『オーナー?あの私ここの泊まり客でもなんでも…いつも、時々上の部屋を使わせてもらって申し訳ないのにこんな事っ、宿泊代とご飯のお金を払わせてくださいっ』
彼女は頭をさげた。

上の部屋を使わせてもらっている、という気まずさが予言以降ここに来る度に思っていた事。
4ヶ月?それでもそれでスッキリするなら…
もちろん普通に宿泊お客として利用していた期間もあったがわずかな期間だ。

『宿泊代とか食事とか我々従業員からはフロント業務の場に立っていない限りお客様には勝手に請求は出来ません。そしてこれはオーナーからの意向ですから尚更、テレビを見ながらゆっくり召し上がっておくつろぎください』
鍵を開けテーブルへと食事を置いた。

『オーナーの意向?』
彼女は目を丸くした表情。

『そうみたいですね、リッチですから』
彼女はお辞儀をし出て行った。

リッチ…
従業員さん羨ましそうだった…
オーナーの意向……
余計に申し訳ない…

コンソメスープ・野菜サラダ・海老グラタン・ヨーグルトが並べられ奈々美はスカーフをとりソファーに座り食べ始めた。

美味しい…心に沁みる…
なんだか色々あって疲れちゃった…
【廊下に出しておいてください】そんなメモに食べ終わった食器をカートに置き慎重に廊下に出す。

こんな風に甘えて…落ち着かない…

奈々美はハッとしここに来るつもりでなかった為に着るものがない事に気づき部屋を出ようとする。


部屋の前に江崎奈々美様と書かれたタグが付けられたスーツケースふたつ、彼女は自分のスーツケースを眺めた。

いつの間に…
このタグってホテルの…

奈々美はそれを部屋に転がして入り平らなとこで開ける、それは彼女が荷造りをしていた衣類そのものだった。

結城さん白い家に?


20時を過ぎた頃着信。

『結城さん流石ね〜有言実行っていうか、明日相沢の顔見るのが楽しみっ、あははっ』
陽子がやけに楽しそうだ。

有言実行…?
いったい何…?
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