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第8章 愛撫の先に…

『ここにはいられない…』
スーツケースひとつを廊下に置く。

『俺があの家から持ち出し従業員にこの部屋まで運ぶよう手配したスーツケース、無意味な引っ越し作業も止めたまえ、何処に行くというのか……』
もう１杯ワインを飲む。

『そんなにワインを飲んで体に悪いわ…何か頼んで…』
翔子というこだわりがあれど一応心配をする。

『軽く作ろうという前に君が変な真似をしているからだ、食事どころではないだろう』
彼は冷蔵庫のドアを閉めクラッカーの箱を棚に戻した。

『あたしの事は放っておいて…ご飯を食べてください』
自由にするとでもいうようにもうひとつのスーツケースを廊下に置く。

『何が気にいらない？チェックインという時刻にさしかかる時に君を迎えに行き相沢の手からも逃れさせ、あらかじめ君が部屋に入る頃に食事を手配した俺の気持ち…君にはわかるまい、処女を奪った俺にやけに強情な君、好きな社員への想いを考えると…処女は社員にあげたいものだ、予言とはいえ処女を奪った俺は気にしていた……』
喋りながら彼はソファーに座って彼女を見ていた。
彼のそんな裏の思いやりを話した後に彼女がどういう言葉を言うのかを観察する意味があった。

『チェックイン…いつもそんな無理して迎えに…？そんな事あたしが喜ぶなんて思わないで…』
ドアに寄りかかる。

『君は先ほどの宿泊費とか食事とかを気にする優しさを持った女だと思っていたのに残念だ』
思い出したようにリモコンを持ち暖房を入れる。

『宿泊費気にします、普通の人なら当たり前なんだから』
先ほどのご飯の味が思い出され一瞬表情が和らぐ。

『そう、微々たる宿泊費を気にする優しい女、色気だけを武器にした女よりも君みたいに社員に想いを寄せる奈々美に心惹かれた』
彼は奈々美を見据え立ち上がり彼女の方に歩いた。

告白なんて…
告白なんて…
告白なんて…
あたしの気持ちは揺らがない…

彼女はドアノブに手をかけた、逃げようというのだ。

『いい加減つまらない議論に終わりをつけ食事をとらせてもらえないだろうか、多少イライラもしている』
彼はドアに手をついて彼女を観察していた。

『翔子なのか？君がつまらない意地をはるのは翔子なのか？』
見逃さないとでもいう表現が当てはまるかのように彼は彼女の表情からの意味を探していた。

動揺する目、口元、彼女のそれは物語っていた。